司馬遼太郎「最後の将軍」

tagosaku2003-10-05



 ペリー来航以来、開国か攘夷か、佐幕か倒幕かをめぐって、朝野は最悪の政治的混乱に陥ってゆく。文久二年、将軍後見職として華々しく政界に登場したのちの十五代将軍徳川慶喜は、優れた行動力と明晰な頭脳をもって、敵味方から恐れと期待を一身に受けながら、抗しがたい時勢にみずから幕府を葬り去った。 
 その有能さから家康以来の将軍と謳われた慶喜が一橋家から将軍になり、そして大政奉還に至るまでその半生を描く。多くの教養と優れた論説を持った優秀な将軍には貴族生まれということから野心が欠けており、それが大政奉還という結果的に歴史的偉業を成し遂げたというのは、歴史の妙かしら。「竜馬がゆく」が薩長土から見た幕末だとしたら、こちらは幕府側から見たそれだろう。歴史の教科書からは読み取れない慶喜の多芸多才ぶりがよろし。好き。